author : rinrin
【エクササイズ物語】26.物語 PART(1)
2008-12-07 Sun 02:08
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第1部

むかし、むかし、まだ、人間界に、魔法があった頃のお話し。

海辺の小さな漁村に女の子が、住んでおりました。

少女の名前は、イシュ。

この世界では、人の子供には、生まれてすぐに付けられる「通り名」と

後に15歳になると付けられる「真実の名」の二つがあった。

15歳に成長した子供たちは、「聖霊の祝福」を受け、

自らの聖霊により、もう一つの「真実の名」を告げられることになっていた。

人々は、「真実の名」を、その生涯を終わるまで、決して口外することはなかった。

なぜなら、「真実の名」は、時折、悪しき妖魔たちの極上の餌食になるからだった。

「真実の名」を奪われてしまうと、人は、正気を失うか、死んでしまうと、

まことしやかに、噂されていた。

時折、大人たちは、子供たちのベッドの傍らで、

名前を奪われた人々の恐ろしい話をきかせては、

子供たちを布団の中で震え上がらせた。


さて、イシュの父親である漁師サウルは、

毎夜のごとく、仲間たちと酒を飲み、

そして、機嫌良く帰宅した後、

妻のハンナが、どんなに、愚鈍で、気が利かない女か

時には、言葉で、

時には、暴力で

虐げ、服従を強いるのだった。

サウルは、それが、家庭での、夫たる自分の仕事の一つだと思っていた。

ハンナは、夫から、自分が犬猫と同じように扱われることに、

表面は、屈伏しているかのように装っていた。

しかし、彼女の深い怒りは、

サウルに似た、娘のイシュに、向かった。

ハンナは、あまりに自分が不幸だと思っていたので、

イシュを愛することができなかった。

また、夫に似ていたイシュは、

母親に、愛情を込めて、抱かれることもなく、育った。



しかし、サウルは、時折、漁が上手くいくと、

気まぐれに、イシュに、小さな銅貨をくれた。

イシュには、そのサウルの気まぐれの意味が、

さっぱり分からなかったけれど、

気まぐれが、変わらないうちに、

銅貨を、あわててポケットに隠すのが常だった。

サウルは、そのイシュの、おどおどした、

子どもらしくない、しぐさを見るたびに

舌打ちをしながら、

不機嫌になるのだった。

イシュには、サウルの、機嫌が変わる瞬間が、

手に取るように、読めた。

それは、背筋が凍りつく瞬間でも、あった。

母親のハンナは、サウルが、横暴になり、ハンナを殴るたびに

イシュに言った。

「オマエが生まれて来さえしなければ、私は、あいつと別れられたんだ」


イシュは、母親から、そのたびに、自分が生まれてきたことをひどく後悔させられた。

サウルから、殴られたハンナの体の傷をみるたびに、申し訳ない気持ちで、

心がいっぱいになった。


そして、イシュは、笑わない子になっていった。

しかし、それは、イシュの責任では、なかった。

イシュは、まだ子供だったのだから。



ある朝、サウルは、仕事で海に出た。

前日の夜、村の長老によると、嵐がくるので、

その日、村人が漁船を出すことを禁じたはずの日だった。

しかし、ハンナは、前の夜、サウルから、しこたま殴られたことを根に持ち、

夫への腹いせとして、その知らせを、酔いつぶれて寝ているサウルに伝えなかった。

イシュは、その知らせを、知っていたが、ハンナに口止めされていた。

そういうわけで、サウルは、その日の朝、快晴の海へ、一番に、船を出した。


ところが、船出をして数時間たつと、嵐の雲が広がり、

長老の予言どおり、やはり、嵐となった。

小さな船は、木の葉のように、風にゆられ、波に翻弄され、

ついには、サウルを荒れ狂う海の中へ、放り出してしまった。

サウルは、必死で助けを呼んだ。

そして、肺に水が入り込み、力も尽きて、意識が次第に薄れゆこうとしている時、

ふいに頭上から声がした。

「助けを呼んだか?」

視界におぼろに黒い人影らしきものが見えた。

「助けてくれ!助けてくれ!」

父親は声の主が誰とも分からず必死で叫んだ。

声の主は、人の姿をした美しい妖魔だった。

「では、オマエの真実の名を。」

と、妖魔は、暗い抑揚のない声で言った。

嵐の中でも、妖魔の声は、サウルの頭の中に、直接響いてきた。


サウルは、一瞬、間を置いて、ためらったかに見えたが

今の状態から助かりたいばかりに、

「わかった、頼む、早く助けてくれ」

と応じてしまった。

妖魔は、ほくそ笑み、かくして、サウルは、浜辺に引き上げられた。

そのとき、はじめて父親は、

大変なことをしてしまったことに気づいた。

「ちょっと、まってくれ」と言いながら、頭の中で、考えをめぐらせた。

サウルの恐怖を楽しむように、妖魔は、ほくそ笑んだ。

そして、サウルは、後戻りできない後悔の涙を流した。


妖魔にとって、これは楽しいゲームにしか過ぎなかった。

「では、おまえの娘の名を」

妖魔は、サウルの顔をのぞき込み、

さらに冷ややかに、そして、からかうように、言った。

しかし、イシュは、まだ、今年6歳になったばかりで、真実の名を持たなかった。

「15歳のときに。それまで待っていよう」

サウルは、数十年後には、もう妖魔もあきらめてくれるのではないかと期待した。

「わかった。そうしよう」

浅はかな考えで、父親は、そう了承した。

妖魔の数年は、人間の数百年に、相当する。

彼らにとっては、待つことなど、なんの苦にもならなかった。


妖魔は満足そうに表情を浮かべ、次の瞬間、空中に掻き消えてしまっていた。

サウルは、しばらくすると、夢だったのだろうか?と思うようになった。

夢だったのかもしれない。いや、きっとそうだ。

そして、そう思うことにした。

しかし、数日後、嵐に壊され、浜辺に流れ着いた船の板片を

発見したサウルは、全身が凍りつくような現実を味わった。

しかし、それも、やがて、酒の力で、数週間で、

サウルの中から、きれいに、かき消えてしまった。


(次回へ続く)
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